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福岡地方裁判所 昭和49年(ワ)958号 判決 1977年11月14日

原告

清水方子

ほか一名

被告

田上初行

ほか三名

主文

一  原告らの請求はいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して、原告清水方子に対し金四五万八八九五円、同清水拓也に対し金七万六〇〇〇円及び右各金員に対する昭和四六年一一月二八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二原告らの請求原因

一  事故の発生

1  発生日時 昭和四六年一一月二七日午後三時一〇分頃

2  発生場所 福岡市城西二丁目一一―四〇番地先路上

3  加害車両

(一) 普通乗用自動車(福岡五〇あ五四―二三号)(以下甲車という。)

右運転者 被告田上初行

(二) 普通乗用自動車(福岡五は五一―三〇号)(以下乙車という。)

右運転者 被告森山悦子

4  事故の態様

被告田上運転の甲車が、福岡市西区祖原方面より城西橋方面に向けて進行中、前記発生場所に差しかかつたところ、同所附近に駐車中の普通貨物自動車の右側を進行するために道路の中央を越えて進行しようとしたところへ、城西橋方面より西新方面に向けて進行していた被告森山の運転する乙車と正面衝突した。

5  受傷内容

甲車の後部座席に乗車していた原告両名は、前記衝突事故のためいずれも頸椎捻挫の傷害を受けた。

6  治療経過と因果関係

原告両名は本件事故による受傷のため、以下のとおり通院して(但し、原告方子は時に往診あり)治療を受けた。

(一) 原告清水方子(以下原告方子という。)

(1) 都築外科病院

昭和四六年一一月二七日から昭和四七年二月二七日まで九三日間(診療日数四九日、往診一四日を含む。)

(2) 安元外科医院

昭和四七年二月二九日

(3) 綾内科医院

昭和四七年三月八日から同年四月一三日まで三六日間(診療日数二六日、往診一日を含む。)

(4) 永田外科医院

昭和四七年四月一七日から同年五月一〇日まで二四日間(診療日数一四日)

(5) 小野寺鍼灸治療院

昭和四七年五月二五日から同年一二月三一日まで七二日間

(6) 前田治療院

昭和四七年六月二五日から同年一二月三一日まで三六日間

(7) 西野中央外科医院

昭和四七年八月一日から昭和四八年一月五日まで一五八日間(診療実日数一四日、往診五日を含む。)

(8) 大橋内科・小児科医院

昭和四七年一〇月三一日から昭和四八年一月九日まで七一日間(診療実日数一七日)

(9) 市立札幌病院脳神経外科

昭和四八年一月五日から昭和四八年二月二三日まで五〇日間(診療実日数九日)

(10) 尾形整形外科医院

昭和四八年一月二三日

(二) 原告清水拓也(以下原告拓也という。)

(1) 都築外科病院

昭和四六年一一月二七日から昭和四七年二月二七日まで九三日間(診療実日数四五日間)

(2) 永田外科医院

昭和四七年四月一七日から同年五月一〇日まで二四日間(診療実日数七日)

二  責任

1  被告田上初行・同森山悦子

本件交通事故は両被告の前方不注視の過失により生じたものである(民法七一九条)。

2  被告ハツピータクシー株式会社

同被告は、甲車の所有者である(自動車損害賠償保障法第三条)。

3  被告赤星六治

同被告は、乙車の所有者である(同法第三条)。

三  損害

1  原告方子の分

(一) 治療費等 金四八万五二五五円

(1) 都築外科病院 金一四万〇一二八円

(2) 安元外科医院 金三三〇〇円

(3) 綾内科医院 金五万六八〇〇円

(4) 永田外科医院 金四万四一二〇円

(5) 西野中央外科医院 金六万〇五〇七円

(6) 尾形整形外科医院 金五七二二円

(7) 大橋内科・小児科医院 金二万五八〇〇円

(8) 太田病院 金二万六三六〇円

(9) 市立札幌病院 金三万六一一八円

(10) 小野寺治療院 金五万〇四〇〇円

(11) 前田治療院 金三万六〇〇〇円

(二) 交通費 金一〇万〇三七〇円

(三) 家政婦代 金一六万一〇〇〇円

(四) 雑費 金一〇万五三〇〇円

(通院一日につき三〇〇円として通院実日数三五一日間分)

(五) 逸失利益 金一一万六四三六円

本件交通事故による同原告の症状は昭和四八年二月二三日に固定し、同原告には、後頭部・頸項部のしびれ、頭痛、四肢のしびれ等の後遺障害が残り、その程度は自賠法施行令別表一四級に相当する。

同原告の右後遺障害は三年間で回復するとし、同原告の収入を、昭和四八年の賃金センサスを基にして、同原告の得べかりし利益の喪失による損害額を算定すると金一一万六四三六円となる。

(六) 慰謝料 金八五万円

(七) 弁護料 金一〇万円

2  原告拓也の分

(一) 治療費 金九万二〇一〇円

(1) 都築外科医院 金七万六八九〇円

(2) 永田外科医院 金一万五一二〇円

(二) 慰謝料 金一八万円

四  損害の填補

1  原告清水方子に対する支払分 金一一九万円

(一) 日新火災海上保険株式会社(契約者被告ハツピータクシー株式会社)の自賠責保険金

(1) 治療費 金二四万四三四八円

イ 都築外科病院分 金一四万〇一二八円

ロ 安元外科医院分 金三三〇〇円

ハ 綾内科医院分 金五万六八〇〇円

ニ 永田外科医院分 金四万四一二〇円

(2) 同原告に支払われた分 金二五万五六五二円

合計 金五〇万円

(二) 大成火災海上保険株式会社(契約者被告赤星六治)の自賠責保険金

(1) 治療費 金一四万八七八五円

(2) 同原告に支払つた分 金三五万一二一五円

(3) 後遺障害保険金 金一九万円

合計 金六九万円

2  原告拓也に対する支払分

日新火災海上保険株式会社(契約者被告ハツピータクシー株式会社)の自賠責保険金

(一) 治療費 金九万二〇一〇円

(1) 都築外科病院 金七万六八九〇円

(2) 永田外科医院 金一万五一二〇円

(二) 同原告に支払われた分 金一〇万四〇〇〇円

合計 金一九万六〇一〇円

第三被告らの請求原因に対する答弁

一1  請求原因一のうち、1ないし3および5の各事実は認める。

2  同4のうち、甲・乙車が正面衝突した事実は否認し、その余は認める。本件事故の態様は以下のとおりである。即ち、原告ら主張の甲・乙車は、本件現場で対向した際、その道路状況から各自時速5km位で徐行しており、乙車がその進行方向左側の電柱を避けるため、多少右側に寄つていたので、甲車と離合するにあたり自車の前部右側を甲車の前部右側に接触したにすぎず、右接触は車両がかすつた程度であるから、甲車はほとんど衝撃を受けていない。

3  同6の事実は不知。

本件事故の態様は前述したとおりの極めて軽微なものであり、その受傷もせいぜい加療五日間もあれば十分であつた。現に、甲・乙車の運転者や同乗者中原告ら以外に傷害を受けたものは誰もいないのである。従つて、本件事故と原告ら主張の損害との間には因果関係がない。殊に原告方子の場合、仮りに同原告主張の如き症状が認められたとしても、同原告は、本件事故にあつて都築病院の診断を受けたが、レントゲンの結果異常は認められず、ただ同原告の首が痛いとの訴えがあつたにすぎなかつた。しかし、同原告は、本件事故前の昭和四五年一一月頃から強度のノイローゼ及びヒステリーのため同病院で治療を受け、同年一二月一六日からアサヒクリニツク(精神科)に転医して治療を受けた。その症状は、自己中心的、誇大妄想的性格であるところに強度のノイローゼ及び時々発作を伴うヒステリーが加わつて精神上異常を呈するものであつた。そして、同原告は、昭和四六年五月頃から同病院で、首、頭、肩等の疼痛を訴え、その治療を受けていた。

本件事故が軽微なこと及び以上の経緯からすれば、同原告の前記愁訴は、本件事故前からの右既往症に起因すると考えられ、本件事故との因果関係は考えられない。

このように同原告の症状は心因性に基くものであり、その損害は全く否定されるか、そうでないとしても大幅に減額されて然るべきである。

二  同二はいずれも認める。

三  同三は不知、

四  同四について

原告拓也は三八万六〇一〇円を自賠責保険より支払われている。

第四証拠〔略〕

理由

一  請求原因一のうち、1ないし3および5の事実、同4中、甲・乙車が正面衝突したこと以外の事実並びに同二については当事者間に争いがない。本件訴訟における主たる争点は、原告方子につき本件事故と損害との因果関係にあるので、この点について検討を加える。

二  本件事故の態様

前記当事者間に争いない事実と、成立に争いのない乙第一、第四、第五、第七号証、証人石井淳の証言により本件事故発生直後の甲・乙車の右前部付近の状況を撮影した写真であることが認められる乙第六号証の一・二、被告田上初行・同森山悦子の各供述を総合すると次の各事実を認めることができる。

即ち、本件事故現場は幅員六・二mの舗装道路で、道路脇(北側)にはトラツク一台が駐車し、伐採された木枝、しようけ、スコツプ等が散乱しており、反対側(南側)には電柱が設置されていたため有効幅員が狭くなつていた。被告森山は乙車を運転して現場に差しかかつたところ、通路が狭くなつていたのと対向車である甲車を発見したため、これとの離合の安全を図つて速度を時速二〇ないし15kmに減速し進行した。一方被告田上は甲車を運転して約時速20kmで本件事故現場付近にさしかかつたが、乙車を前方に発見したので離合の安全をはかつて道路中央寄りに進め本件事故現場でセンクーラインを踏んで停止した。しかるに、被告森山は、右電柱に気を奪われ、甲車の動静を注視しないまま右電柱を避けるため道路右側に寄つたところ、甲車を認めたため急ブレーキを踏み、甲車と離合しようとしたが及ばず、乙車の右前部付近を甲車の右前部付近に接触させ本件事故を発生せしめた。右事故による物損のために要した修理費用は、甲車が二〇五〇円、乙車が三四〇〇円であつた。

右のとおり認められ、これに反する原告方子(第一回)、被告森山の各供述は採用することができず、他に右判断を左右すべき証拠はない。

三  原告方子の損害と因果関係

1  同原告が本件事故により頸椎捻挫の傷害を受けた事実は前記のとおり当事者間に争いはないが、成立に争いない乙第三号証、証人都築義明の証言により成立が認められる甲第二号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第三ないし第八号証、第九号証の一・二、第一〇号証の一ないし四、第一一ないし第一八号証、第二一、第二四号証、証人都築義明、原告方子(第一回)の各供述によれば、次の各事実が認められる。

即ち、同原告は、右頸椎捻挫の治療の目的のため、本件事故当日の昭和四六年一一月二七日から昭和四七年二月二七日まで九三日間のうち四九回(ただし、うち一四回は往診)に通院し、同月二九日安元外科医院に通院し、同年三月八日から同年四月一三日まで三七日間のうち一九回綾内科医院に通院し、同年四月一七日から同年五月一〇日まで二四日間のうち一四回永田外科医院に通院し、その後札幌市に転居し、マツサージ治療のため同年五月二五日から同年一二月まで七二回、小野寺鍼灸治療院に通院するかたわら、その間、前田治療院に三六回通院したほか、西野中央外科医院に同年八月一日から昭和四八年一月五日まで一五八日間のうち一四回通院し、さらに昭和四七年一〇月三一日から昭和四八年一月二九日まで七一日間のうち一八回大橋内科・小児科医院に通院した。同原告はさらに同年一月五日から同年二月二三日まで五〇日間のうち九回市立札幌病院脳神経外科に通院し、その間同年一月二三日、尾形整形外科にも通院した。右のとおり認められる。

ところで、右各証拠によれば、同原告の症状は右各病院によりいずれも頸椎捻挫と診断されているが(ただし、小野寺治療院、前田治療院を除く)、いずれも有意の他覚的所見は殆ど認められず、首、頭、肩等の疼痛、吐気等の同原告の愁訴による多彩な自覚症状にすぎないことが認められる。

2  しかるに、成立に争いのない乙第二、第三、第七号証、証人秋本辰雄・同都築義明の各証言によれば次の各事実が認められる。

即ち、同原告は、昭和四五年一一月頃都築外科病院に心臓発作があるといつて来院したが、都築義明医師は心因性反応によるもの、すなわちノイローゼと診断して九大神経科に転医させ、同年一二月から昭和四七年一月一二日までアサヒクリニツク(精神科)に転医し、同病院で肩、頭等の疼痛を訴え三七回以上通院し秋本辰雄医師の治療を受けていたが、その間も同原告は同医師に対し、昭和四六年一一月二七日同原告が交通事故にあつたことを申告もしないし、同原告の症状自体についても、右交通事故の前と後とで違つた症状を訴えたわけでもなく、勿論他覚的にもそういうものは認められなかつたし、同原告の秋本医師に訴える右症状そのものが、心因性によるもので他覚的所見は認められていなかつた。また同原告は、本件事故当日、都築病院で診断を受けたが、これも他覚的所見は認められず、同原告の首、肩等の疼痛、吐気等の訴えにより頸椎捻挫と診断されたが、加療約五日間という軽症のものであつた。都築医師自身通常なら一年も二年もの治療を要するような症状とは見ていない。

3  ところで、頸椎捻挫の場合には、患者の性格や生活環境によつて愁訴が多彩であり、本人の苦痛が大きいにもかかわらず、他覚的所見が比較的乏しく、また全く認められない場合もあるといわれている。そして、心因性反応により、頸椎捻挫による症状が長期化するにしても、その原因たる交通事故がひき金になつていることが十分考えられることは、証人都築義明の証言によつても認められるところである。

4  以上の点を彼此考慮すると、同原告が被つた損害と本件事故との因果関係を全く否定することはできないとしても、同原告は、本件事故前から潜在的又は顕在的既往症として強度のノイローゼを有しており、それが本件事故により顕在化又は増悪化したものと認められ、それに本件事故による直接の傷害としての頸椎捻挫が合併したものと認めるのが相当である。しかし、右各症のいずれの所見も心因性である頭痛、吐気等の症状で共通し、しかも、前記認定した事故の態様から推すと、事故そのものは軽微な接触事故であり、その衝撃も極めて軽微と推認される(右認定と牴触する原告方子(第一回)の供述部分は採用できない)。しかるとき、同原告の頸椎捻挫としての症状は容易に完治せず、その治療期間は長期にわたつているものの、右に関しては、原告の有する心因性の要素が極めて大きく関与しているものであり、同原告が被つた損害全部を本件事故の傷害によるものとすべきでなく、原告の既往症と本件事故による頸椎捻挫双方の寄与度を比較衡量して、本件事故の寄与している限度において相当因果関係が存するものとして被告らに賠償責任を負担させるのが公平の観念に照らして相当である。

そして、前示の事実や証拠に照らすと、本件において原告方子主張の治療状況のうちせいぜい五割の程度において本件事故と相当因果関係を肯定するのが相当である。

5  そこで本件事故により同原告が被つた損害について検討する。

(一)  治療費等 金四五万八八九五円

前掲甲第三、第五、第七、第八号証、第九号証の一・二、第一〇号証の一ないし四、第一二、第一四、第一六、第一八号証によれば、同原告は本件傷害の治療費として金四五万八八九五円を要したことが認められる。原告ら主張の請求原因三の1の(8)、太田病院の分である金二万六三六〇円はこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)  雑費 金三万二八五〇円

原告ら主張の交通費については、これを認めるに足りる証拠はない。しかし雑費については前示事実や証拠に照らすと、通院一回につき一五〇円を要すると認めるのが相当であり、また通院回数は前記認定のとおり二一九円と認められるから、合計金三万二八五〇円を要したと認めるのが妥当である。

(三)  家政婦代 金一八万三〇〇〇円

原告方子本人尋問の結果(第一回)により成立が認められる甲第二五ないし第二八号証によれば、家政婦代として金一八万三〇〇〇円を要したものと認められる。

(四)  逸失利益 金四万一〇三八円

前掲甲第二四号証によれば、同原告の頭痛、頸部のしびれ感等の症状は、昭和四八年二月二三日固定したが、後遺症として局部に心因性頭痛等の神経症を残したものとして自賠法施行令別表の傷害等級第一四級に該当すると認められる。そうすると、同原告は一年間にわたり五パーセントの労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。

また、原告方子本人尋問の結果(第一回)によれば、同原告は、右期日当時三三歳で、主婦として家事にあたつてきたものと認められるから、少くとも、昭和四八年の賃金センサスによる全産業女子労働者(三〇ないし三四歳)学歴計の平均年収額である九一万二五〇〇円の収入を得べき稼働能力があると認められる。

以上の事実に照らし、同原告の得べかりし利益の損失による損害額をホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故時の現価を算定すると、四万一〇三八円となるが、その計算式は以下のとおりである。

(1) 昭和四八年二月二四日から昭和四八年一一月二六日まで二七六日間分 金三万一二九五円

九一二五〇〇÷三六五×二七六×〇・〇五×(一・八六一四-〇・九五二三)≒三一三六四

(2) 昭和四八年一一月二七日から昭和四九年二月二三日まで八九日間分 金九六一〇円

九一二五〇〇÷三六五×八九×〇・〇五×(二・七三一-一・八六一四)≒九六七四

(五)  慰藉料 金五〇万円

前記諸事情その他一切の事情を考慮すれば、同原告が本件事故によつて蒙つた精神的・肉体的苦痛を慰謝すべき額としては金五〇万円が相当である。

(六)  ところで前記三の1ないし4認定のとおり本件においては同原告の全損害のうち五割の程度において本件事故と相当因果関係を肯定するのを相当するから、前記(一)ないし(五)の合計金一二一万五七八三円の五割にあたる金六〇万七八九二円が本件事故による損害と認められる。

(七)  損害の填補

同原告が自賠責保険から金一一九万円の支払を受けたことについては同原告の自陳するところであるから、右金員を前記(六)の損害に充当し控除すると、同原告の本件事故による損害はすべて填補済みとなる。

四  原告拓也の損害

1  治療費 金九万二〇一〇円

同原告が本件事故により頸椎捻挫の傷害を受けた事実は前記のとおり当事者間で争いはなく、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一九、第二〇、第二二、第二三号証によれば次の各事実が認められる。

即ち、同原告は、頸椎捻挫の治療のため、本件事故当日の昭和四六年一一月二七日から昭和四七年二月二七日まで九三日間のうち四五回都築外科病院に通院し、治療費として七万六八九〇円を要し、同年四月一七日から同年五月一〇日まで二四日間のうち七回、永田外科医院に通院し、治療費として一万五一二〇円を要したことが認められる。

2  慰謝料 金一〇万円

前記諸事情その他一切の事情を考慮すれば、同原告が本件事故により蒙つた精神的・肉体的苦痛を慰謝すべき額としては金一〇万円が相当である。

3  損害の填補

同原告が自賠責保険から金一九万六〇一〇円の支払を受けたことについては同原告の自陳するところであるから、右金員を前記(一)(二)の合計金一九万二〇一〇円に充当し控除すると、同原告の本件事故による損害はすべて填補済みとなる。

五  結論

以上によれば、原告らの損害はすべて填補済みとなるから、原告らの被告らに対する本訴各請求はいずれも理由がないため失当として棄却するべき、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 簑田孝行)

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